私の声がAIに盗まれた——フォーク歌手が体験したAI声クローンと著作権トロールの二重地獄

あなたの声がAIに勝手に使われ、さらに楽曲の収益を奪われる。そんな悪夢のようなシナリオが、米国のフォーク歌手マーフィー・キャンベルを襲った。AIによる音声クローンと著作権トロールという二つの脅威は、もはや未来の話ではない。今すぐクリエイターが知るべき、音楽業界の新たなリスクと具体的な防衛策を解説する。

目次

AIに声を盗まれ、楽曲は著作権トロールに狙われた事件

ノースカロライナを拠点とするフォーク歌手マーフィー・キャンベルは、2026年1月、自身のSpotifyプロフィールにAI生成されたカバー曲がアップロードされているのを発見した。何者かが彼女のYouTubeパフォーマンスをスクレイピングし、AI音声クローンツールで声を模倣したと推測されている。本人の同意なく作成された楽曲が、あたかも彼女の作品であるかのように公開されていたのだ。

さらに同年3月、キャンベルの正規のYouTube動画に対し、gamma傘下のディストリビューターVydia経由で「Murphy Rider」と名乗る人物から著作権侵害の申し立てがなされた。これによりキャンベルは、自身の動画「Darling Corey」の収益を、見知らぬ著作権所有者と共有するようYouTubeから通知される。対象となったのは「In the Pines」など、100年以上前のパブリックドメイン楽曲だった。作曲著作権は誰にも帰属しないが、キャンベルの「録音物」としての著作権が狙われたのである。これは、著作権システムを悪用した新たな手口だ。

著作権トロールが「稼げる」仕組みと対策

Vydiaの創設者であるロイ・ラマンナは、この著作権侵害申し立てにAIは関与していないと説明する。YouTubeのContent IDシステムは、登録されたリファレンスファイルと「完全に一致する」オーディオを検出する仕組みだ。AIが生成した楽曲では完全一致は起きないため、この申し立てはAIによるものではない。ラマンナは、キャンベルの楽曲がACR(Audio Content Recognition)データベースに登録されていなかった点を指摘する。ACRは、ディストリビューターが既存の楽曲を識別するために利用するオーディオフィンガープリント技術である。

著作権トロールは、ACRデータベースに未登録の楽曲を見つけ出し、自らが先に登録することでContent IDシステムを悪用した。キャンベルの録音物の著作権は彼女自身にあるはずだが、そのデジタルフィンガープリントが登録されていなかったため、第三者が先行して登録し、自身のものとして主張できてしまったのだ。皮肉にも、この一連の事件が発覚した後も、キャンベルの楽曲はACRシステムに登録されていない。しかし、TikTok SoundOnACRCloudと提携し、未承認のアップロードを未然に防ぐ技術を導入するなど、業界では対策が進んでいるのは事実である。

構造的な問題——法律はまだ追いついていない

キャンベルの事件が特に厄介なのは、誰も「明確に違法なこと」をしていない点だ。著作権トロールがACRデータベースに登録したのはパブリックドメイン曲の「自分たちの録音物」として。AIによる声クローンを禁じる法律は2026年初頭に米国でようやく成立したが、救済のルートはまだ不明瞭なままだ。

キャンベル自身はThe Vergeの取材に「思っていたよりずっと根が深い問題だと思う」と語っている。Vydiaのラマンナも今回の件を受けて自社のシステムを見直すと表明したが、ACRデータベース未登録の楽曲は世界中に無数に存在する。

日本においても、自身の楽曲がACRに登録されているかどうかをディストリビューターに確認する価値はある。TikTok SoundOnがACRCloudと提携して未承認アップロードを防ぐ技術を導入するなど、業界の対応は始まっているが、インディーアーティストへの波及はこれからだ。

X(Twitter)での反応

この事件に対し、X(Twitter)ではアーティストの危機感を表明する声が多く上がっている。音楽を取り巻くテクノロジーが進化する一方で、法整備が追いつかない現状への懸念は根深い。

クリエイターにとって、自身の権利を守るためのリテラシーがこれまで以上に求められていることがわかる。


参考URL: https://www.musicbusinessworldwide.com/a-folk-musician-had-her-voice-cloned-by-ai-and-her-recordings-claimed-by-a-copyright-troll-welcome-to-2026/


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