TikTokが運営する音楽ディストリビューションサービス SoundOn が、新たな不正対策に乗り出す。AI技術を活用し、ピッチや速度が変更された「改変オーディオ」を配信前に検知する仕組みを導入したのだ。これまでグレーゾーンとして存在した不正アップロードの「抜け穴」が塞がれ、クリエイターの権利がより強固に守られる時代が訪れる。この動きが日本の音楽クリエイターに何を意味するのか、深掘りしよう。
SoundOnが「改変オーディオ」の不正アップロードを阻止する
SoundOnは、コンテンツ認識企業 ACRCloud との提携を発表した。これにより、ACRCloudが開発した「Derivative Works Detection(派生作品検知)」ツールが導入される。この新技術は、著作権のある楽曲が不正にアップロードされるのを防ぐものだ。
特筆すべきは、単なるコピーだけでなく、速度やピッチを「大幅に改変された」楽曲も検知できる点にある。オーディオフィンガープリンティング技術を使い、それらの改変作品が Spotify や Apple Music、Amazon Music などのDSPに配信される前に特定する。フラグが立てられたコンテンツは、配信前後に厳しくレビューされる。
SoundOnはアップローダーに対し、写真付き身分証明書による本人確認を義務付け、問題のあるコンテンツは人間の目による詳細なレビューに回す。TikTokの既存のコンテンツスキャンシステムと組み合わせることで、SoundOnは「業界最高レベルの多信号検出フレームワーク」を構築したと言える。これにより、配信されるコンテンツが「オリジナルで、承認済みで、信頼できる」ものであることを保証する狙いだ。
不正音源が横行した背景と業界からの圧力
今回のSoundOnの動きは、近年業界で深刻化していた「改変オーディオ」問題への強い対応である。特に、AI技術の発展とともに、既存の楽曲を簡単に操作し、あたかも新しい作品のようにアップロードする行為が横行していた。
2024年5月には、TikTokと Universal Music Group (UMG) の間で新たなライセンス契約が締結された。この契約には、UMG所属アーティストの楽曲をAI生成・AI操作された音楽から保護する条項が盛り込まれていた。これは、TikTokが商業的な圧力に直面し、不正対策を強化せざるを得ない状況にあったことを示している。
さらに同年10月、TikTokはインディーズコレクティブ Merlin とのライセンス交渉から撤退した。その理由の一つが、Merlin加盟レーベルの一部が、速度変更など操作された既存楽曲を多数アップロードし、TikTok上で収益化していたことへの懸念だった。不正音源を巡る問題は、ディストリビューターの責任にも及んでいる。2024年11月には、UMGなどが Believe とその子会社 TuneCore を相手取り、5億ドルの著作権侵害訴訟を起こした。Believeが「産業規模の著作権侵害」によって事業を拡大したと主張しており、その一因に速度変更・操作された著作物の配信があったとされている。
ABKCO Music & Records や Concord Music Group といった企業もこの訴訟に加わっている。これらの動きは、業界全体が不正な改変オーディオに対し、これ以上見過ごさないという強い意志の表れだ。
日本のクリエイターは「本物」で勝負する時代だ
今回のSoundOnの発表は、日本の音楽クリエイターにとっても大きな示唆を与えるものだ。これまで、既存曲のピッチや速度を微妙に変えてTikTokでバズらせる、といった手法を試みたクリエイターもいただろう。しかし、その「抜け穴」は確実に塞がれる。
これからは、安易な改変によるバズは通用しない。SoundOnをはじめとするプラットフォームが、オリジナル性や著作権の尊重を徹底する方針を打ち出したことで、「本物」であることの価値がこれまで以上に高まる。
D2Cやファンエンゲージメントを重視し、自身のオリジナル楽曲で勝負する正当なクリエイターにとっては、健全なエコシステムが整備される追い風となるだろう。不正なコンテンツが排除されることで、本当に価値のある作品が埋もれにくくなる環境が作られるからだ。
SoundOnに登録する110万人以上のアーティストにとって、今回の発表は「オリジナルであること」がより明確に評価されるインフラが整うことを意味する。不正コンテンツが排除されるほど、真っ当にリリースしたオリジナル曲の相対的な露出は上がる。
参考URL: https://www.musicbusinessworldwide.com/tiktoks-distro-service-soundon-cracks-down-on-manipulated-audio-via-acrcloud-partnership-to-intercept-unauthorized-tracks/

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